なぜアディダスは卓球から撤退したのか

かつて卓球界にはアディダス(adidas)が参入しており、ラバー・ラケット・ウェア・シューズなどを販売していました。

アディダスの卓球用品がついに日本へ上陸

世界的なスポーツブランド「アディダス」がついに卓球のマーケットに進出する。ヨーロッパでは以前からアパレルとシューズは販売していたものの、世界規模での発売は初めてのことである。競技規模でのマーケットは大きくないが、「オリンピック競技には用具メーカーとして参入する」という基本姿勢に基づき、今回の卓球への本格参入となった。

【TOPICS】アディダスの卓球用品がついに日本へ上陸

参入時期は2010年〜2015年とたったの6年。

なぜアディダスは卓球から撤退してしまったのでしょうか?勝手に推測してみました。

考えられる理由は3つで、
・卓球の市場が小さすぎる
・その中ですらシェアを取れなかった
・卓球界に価値を提供できなかった

という感じでしょうか。

卓球の市場が小さすぎる

アディダスレベルの企業にとって、卓球市場の規模は小さすぎます。日本の卓球市場は年間130億円程度。右肩上がりで上昇中とはいえ、他の競技スポーツと比べて小さいです。

競技名 国内の市場規模
ゴルフ 2650
野球・ソフト 720
サッカー・フットサル 620
テニス 560
自転車 440
スキー・スノボ 400
バスケ 270
水泳 220
バドミントン 165
卓球 130
武道 110
バレー 100
ラグビー 33

おそらく今のペースで卓球市場が伸びていけば、バドミントンを抜くのは時間の問題でしょう。でも…野球やサッカー、テニスにはほど遠いし、ゴルフの足元にも及びません。

また上記には入れていませんが、スポーツシューズという曖昧なカテゴリは3000億。このうちのかなりのシェアはアディダスが握っていると思われます。

アディダスの企業規模に対して、卓球市場があまりにも小さいのが1つ目の原因というわけです。頑張ってシェアを取ったとしても、実入りが少なすぎる。

ラバーのシェアをまったく取れなかった

卓球市場の約4割はラバーだそうです。

ラバーは定期的に張り替えないといけない消耗品ですし、ラバーを替えると打感・プレーが変わるのでなかなか他社に移りづらい。安定して売上を見込めるラバー市場を制してこそ、卓球市場で存在感を示せると言えるでしょう。

アディダスはウェアで一定の存在感はありましたが、ラバーについては全然ダメだったのが実情。タマス(バタフライ)、ニッタク、ヤサカなど先行メーカーの牙城はまったく崩せませんでした。

ぶっちゃけアディダスのラバーは魅力がありませんでしたよね。大手メーカーがとりあえず企画しました、みたいな軽いノリで出している感じが伝わってくるんですよね。そんなレベルで乗り換えるほど、卓球人にとってラバーは軽い存在ではありません。

卓球のラバーは専門性が高すぎて、メーカーのブランド力やパッケージのかっこ良さだけでは、シェアが取れないのがラバー市場なのです。

他の後発メーカーは?

韓国のXIOMがアディダス参入の前年2009年にヴェガシリーズを発売して、日本市場で一気に知名度を上げたのとは好対照です。ヴェガには安価なテンションラバーを提供するという、明確な方向性がありました。意図が明確なら、後発品でも受け入れられるんです。

ミズノもラバーに関しては後発&大手という意味でアディダスとは似た立ち位置ですが表ラバーでは一定のヒットを飛ばしています。表ラバーではブースターが確固たる位置を確保しており、ラケットでは一時期フォルティウスFTが大ヒットしました(値上げさえなければ定番7枚合板になれた)。

後発でもやろうと思えばやれるんです。アディダスは3本線のブランド力にあぐらをかいたのかどうかはわかりませんが、それっぽくパッケージングすれば売れるだろうみたいなノリだった気がします。他競技と比べて、いい意味でも悪い意味でも「変な人」「オタク」「めんどくさい人」が多い卓球界を攻略するためには、そんな軽いノリではまず無理なのでしょう。

片手間では卓球界に価値を提供できなかった

そもそもアディダスとしては卓球で儲けようなんて意図は無く、色んなスポーツを支援するというCSR的な観点での参入だったのかなと思っています。

オリンピックに採用されているスポーツだし、自分も参入して盛り上げてあげようと思ったけれど、ラバー・ラケットの専門性が高すぎて片手間では全く価値を提供できなかった。タマス、ニッタクを筆頭とした既存メーカーが強すぎて、アディダスが海外メーカーに委託して企画した程度の商品には、全く魅力がなく受け入れられなかった。卓球界に必要とされていないのなら、無理して残り続ける必要はない。そう考えての撤退だった気します。

儲からなさすぎてメーカーがどんどん減っている他のマイナースポーツだと、アディダスみたいな大企業が慈善事業という感じで参入し続ける意味はあります。ナイキやアディダスがCSRという観点でマイナースポーツを支援しているのは素晴らしいし、支持されているし、それがブランド力につながっている側面は間違いなくある。

ただ卓球の場合はマイナーかつ市場規模は小さいわりに、既存のメーカーが専門性を競い合ってガンガンやってる。特にラバー、ラケット、ボールの主要3アイテムはナイキやアディダスなしでも成り立ってしまっている。そこにCSR的な態度でアディダスが参入しても、何の価値も提供できないのは明白です。

「自分のような大企業がいなくても成り立つ市場なら、撤退すっか」という感じだったのかな。
私はこの理由が一番大きいと考えています。

ウェアやシューズだけでもアディダスが残って欲しかった

ラバーやラケットでは既存メーカーに太刀打ちできなかったアディダスですが、ウェアやシューズだけでも残って欲しかった。最近ツイッターで「卓球のユニフォームがださい」「もっとかっこいいユニフォームが欲しい」という話が盛り上がっており、アディダスの撤退を嘆く声もチラホラ聞かれました。

デザイン力という面では、タマス・ニッタク・ヤサカ・VICATAらが束になっても叶わないものをアディダスは持っています。再参入して、既存メーカーとは違った立場で卓球界のデザインに新しい風を拭かせて欲しいと願ってやみません。

草の根で卓球のユニフォームを変えよう!という流れも?

草の根でこんな動きも。

#新しい卓球メーカーを作る

かっこいいユニフォームがないなら、自分たちで作っちゃおう!という流れです。

アディダスのような世界的な企業も、タマス・ニッタクのような既存老舗メーカーも変えることができなかった卓球ユニフォームの(ダサい)デザインを、ツイッター発の草の根ムーブメントが変えちゃうとしたら、痛快そのものですね。これに関してはまた別の記事で掘り下げたいと思います。

ぜひみなさんも意見やアイディアがあれば #新しい卓球メーカーを作る のハッシュタグでつぶやいてみましょう!